東京都内のJR中央線沿線のコンビニ。レジに立つ中国出身の男性アルバイト、王俊宇さん(25)=仮名=は、中国の「地方重点大学」の中でも屈指の名門校で機械工学を専攻した。大学院の試験に落ちたことで日本への留学を考えるようになった。両親がかつて日本で暮らしていたことや日本のアニメに親しんでいたことから親近感を抱いていた。
2022年春、王さんは大学院進学を目指して来日した。入学した日本語学校ではわずか3か月でN1(N1~N5まである日本語能力試験の最上位)を取得。今は国立大学の研究生として大学院進学に向けた勉強に励んでいる。一人息子だが日本での就職を強く望んでいる。
コンビニでアルバイトを始めたのは来日して数カ月が経ったころ。店頭のポスターを見て応募した。今も講義のない土曜、日曜を中心に週3回、アルバイトのシフトに入る。
「始めたころはたばこの種類が分からなくて大変だった。時間がかかっているとお客さんから『こんな子にアルバイトさせちゃダメだ。上の人、呼んで』と大声をあげられたりもしました」
経済力では日本をしのぐ中国の高学歴の若者がなぜ、30年以上もの経済低迷や近年の円安に苦しみ、人口減による一層の先細りも予想される日本での就職を望むのか──。
「コンビニのバイトで分かったことだけど、日本は1分単位で残業代を払ってくれる。それは中国ではないこと。週休2日にもなっていないし、今は若者の就職が厳しい。日本は街もきれいで住みやすい」
筆者の問いにそう答えていた王さんが、より本音に近い思いをのぞかせた場面があった。
「オレが頭にきてるのは、日本に来てみて大学生や若い人が楽しそうだったこと。オレは(小学校入学から)この20年間、楽しいと思ったことは一度もなかった。良い高校、大学、大学院に入らなければ自分の人生はないんだ、終わるんだと思っていた。日本では(学歴競争とは関わりの薄い職業の)多くの人たちが自分の仕事にプライドを持って働いている。それは中国と違っている」
その声はいくぶん感情的だった。
中国人留学生向けの大学予備校運営に加え、大学や大学院に在籍する中国人留学生の就職支援も手掛ける「行知学園」(東京)の担当者によると、「中国のIT業界には『996問題』(朝9時から夜9時まで週6日働かないといけない)に加え、『プログラマー35歳定年説』などがあり、安定した労働環境を求めて日本のIT業界での就職を希望する留学生も多い」と話す。
行知学園の揚舸社長は「中国の熾烈な学歴競争を勝ち抜いて経済的地位を築いた親世代の中で、受験競争が中国ほど激しくない日本の大学に子どもたちを進ませようとする人たちが増えています。円安の影響で教育投資としても安く済む。私たちの取り組みもあって日本は欧米諸国に次ぐ6番目の留学先として認識されています。その流れの中で今後、日本での就職を希望する留学生は増えていくと考えています」
増える外国人留学生 65%が日本での就職を望んでいる
独立行政法人・日本学生支援機構(JASSO)によると、2011年5月時点で約16万4千人だった外国人留学生は19年5月に約31万2千人を数え、政府が08年に策定した「留学生30万人計画」を達成。コロナ禍で22年5月は約23万千人まで減ったものの、ほぼ終息した23年5月では一気に5万人近く増加して約28万人に。政府が同年、新たに「留学生40万人計画」を示したことなどから、今年5月時点の留学生の数は過去最多となるとも予想されている。前出の中国人留学生の2人のように日本での就職を希望する外国人留学生は約65%に上り、出身国での就職希望者の約19%を大きく上回っている。
コンビニ大手3社の外国人従業員割合
異次元の優秀さだぞ