「中国版ネットフリックス」と呼ばれる動画配信サービス「アイチーイー( iQIYI、愛奇芸)」の龔宇CEO(最高経営責任者)は25日、上海で行われた年次の全社発表会でこのように述べた。龔宇CEOは「2018年から今年6月までの月別グーグル検索量データを見ると、中国ドラマが最近、韓国ドラマを上回っている」として「メディアでは韓国ドラマのネットフリックス進出の成果ばかり強調しているが、データが示す現実は異なる」と述べた。また、IT専門の市場調査会社AMPDの調査結果を根拠に「今年第1四半期(1-3月期)には東南アジア市場で中国ドラマの人気が韓国ドラマの人気を上回り、現地のユーザーたちが最も好きなコンテンツになった」と主張した。
2010年に設立され、加入者が1億人に上るiQIYIは、ネットフリックス、amazonプライム、ディズニー+、テンセントビデオ(騰訊視頻)に次いで、動画配信サービス企業の世界5位だ。14年から毎年およそ200本の自社制作コンテンツを公開し、「ハリウッドとシリコンバレーが50%ずつ入った企業」というスローガンを掲げてAI(人工知能)技術の融合にも積極的に取り組んでいる。毎年4月と9月に全社発表会を開催し、経営の成果と未来戦略を対外的に説明する。
龔宇CEOの発言は、中国のコンテンツ産業が東南アジア市場を足掛かりに海外進出を加速化させている現実を示している。実際に中国の2大動画配信サービス、iQIYIとテンセントビデオは、東南アジアでネットフリックスとディズニー+を上回り、現地のコンテンツ市場を席巻している。19年にシンガポールなど東南アジアを中心にグローバル対応のサービスアプリを公開したiQIYIは、翌年に自社制作ドラマ『バッド・キッズ 隠秘之罪』(原題:『隠秘的角落』)や『成化十四年〜都に咲く秘密〜』などをマレーシア、タイ、シンガポールでヒットさせた。ネットフリックスで東南アジア各国政府との交渉を担当していた役員も迎え入れた。中国のもう一つの動画配信大手、テンセントビデオもマレーシアの巨大動画配信サービス、アイフリックスを買収し、グローバルサービス「WeTV」の累積ダウンロード数は2億件を突破した。
一部では、中国がアジアの開発途上国の文化コンテンツ市場を戦略的に掌握しつつあるとの分析も出ている。韓国ドラマがハリウッドまで進出して「ファンシー・アジアン」(東アジア系の人々)のコンテンツをリードしている間に、中国は東南アジアという巨大市場を狙ったのだ。ネットフリックスなどが支配している欧米市場に比べて、東南アジアが「ブルーオーシャン」である点も、中国が集中的に攻略した理由だった。中国は米国の封じ込め戦略に対抗して経済・政治分野でグローバル・サウス(主に南半球にある開発途上国)を抱き込んでいるが、文化産業でも同様の戦略を駆使しているとの指摘も出ている。
韓国ドラマが世界的に注目を集め、製作費が急上昇して版権の確保が困難になった影響で、東南アジアで中国ドラマの消費が増加したとの分析も聞かれる。それに加え、東南アジアは華僑の影響力が大きいため、中国の文化になじみやすいという面もある。
中国がコンテンツ産業でAIを積極的に導入するようになり、制作力が大幅に向上したとの評価も出ている。iQIYIは制作段階でのキャラクター設定、企画案の作成、シナリオの評価・検閲、映像構成にとどまらず、広報やマーケティングのキャッチコピーまでAIモデルを利用している。龔宇CEOは「これからはAIモデルがなければ会社は電気が切れたように回らなくなるだろう。iQIYIのあらゆる業務にAIが浸透しているからだ」と述べた。龔宇CEOは「22年末、中国で誰もが新型コロナに感染して感染拡大が終わったころに(生成AIの)ChatGPTが登場し、昨年初めから現在までのわずか1年半で世界のコンテンツ創作でAIが革新的に使われ始めた」「AIは全世界のデータを収集して研究したおかげで、今ではクリエイターの意図を人間よりもよく理解している」と説明した。
急速に変化する中国のドラマ市場のトレンドが、海外での市場拡大に有利に働いているとの分析も出ている。中国では従来の長編作品(1話45分)から、ミッドフォーム(15-20分)、ショートフォーム(1分未満)まで、さまざまな形態のコンテンツ制作が活発に行われている。中国のコンテンツ業界の関係者は「中国では国内市場が飽和状態にある上、厳格な検閲などの規制があるため、中国の動画配信企業の海外進出はいっそう加速化するはずだ」と話した。
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