■中国の不況が深刻化… 不動産大手88社が最終赤字!
中国政府は今、次々に景気対策を打たざるを得ない状況に追い込まれている。今春に、「不動産業者の破綻増加は避けられない」と述べた倪虹住宅都市農村建設相は、8月下旬に住宅市場の立て直しに対しての強い意図を明確にした。中国経済の重要なカギを握る、住宅市場の支援拡充に本腰を入れるとみられる。
9月、スペインのサンチェス首相と会談した李強首相は、「電気自動車(EV)は過剰生産というわけではないが、経済分野で協力できる分野は幅広い」と発言した。これは、欧州向け輸出拡大を念頭に置いた発言といえる。
また、9月24日、中国人民銀行の潘功勝総裁は追加の金融緩和の可能性に加え、本土株買い支え資金の拡大など、矢継ぎ早に対策を打つ考えも示した。
これらの発言の背景には、不動産市況の悪化が止まらず、景気の先行きが一段と不透明になっていることがある。1~6月期の中間決算で、不動産大手158社のうち88社の最終損益が赤字だった。中国政府は、金融緩和や地方政府による住宅在庫の買取り策を実施したものの、期待されたほどの効果が出ていない。オフィスなど商業用不動産の市況も悪化している。生産、設備投資などの停滞で、8月、若年層(16~24歳、学生を除く)の失業率は18.8%に上昇した。
それに伴い、中国のリスク資産の下落懸念は高まっている。少子高齢化が進む中で雇用不安が高まると、当面、内需の本格的な拡大は見込めない。現状の経済対策では景気の本格的な回復は難しいだろう。
■中国「株」は独り負け 習近平も景気刺激策に本腰
中国経済がかなり悪化していることは、8月の主要な経済指標を見るとよく分かる。新築住宅価格は前年同月比5.3%下落した。また、不動産投資も同10.2%減少した。不動産バブル崩壊の後遺症は深刻だ。
中国株の「独り負け」も明らかである。本土の株式市場では、主要先進国と対照的に株式インデックスが下落傾向だ。9月23日までの1年間、世界全体で株価は約24%上昇し、新興国株も約13%上昇した。それに対し、上海総合指数は約12%下落した。香港に上場する不動産関連銘柄に至っては約19%と下げがきつい(ハンセン不動産指数)。
9月中旬、甘粛省を視察した習近平国家主席は同省の幹部に対し、「工業化を積極的に推進して生産活動の押し上げを図れ」という訓示を行った。その直後から、中国政府の景気刺激策の拡充に関する報道が増えている。
不動産分野では、住宅市場のテコ入れのため、大都市の戸籍を持たない人に住宅購入を認めるよう規制緩和を進めるようだ。加えて、2軒目の住宅取得時に頭金を引き下げる、住宅ローン金利を優遇する措置も検討対象になっている。
金融政策に関しても、複数の緩和策を実施している。9月23日、中国人民銀行は短期政策金利の一つを引き下げ、翌24日には住宅ローン金利などの引き下げも表明した。一連の発表後に会見を開いた潘功勝総裁は、「商業銀行に積極的に融資を増やすよう促す」と述べた。金融政策の発表後に中国人民銀行総裁が会見を開くのは異例のことだ。それだけ政府内部で先々の景気に対する危機感が高まっているのだろう。
■中国の住宅在庫の処理 「140兆円を上回る資金が必要」
これまでにも中国政府は金融緩和を実施し、その上で住宅市場の支援措置を推進してきた。5月に中央政府は、地方政府に優良な住宅開発案件をピックアップさせ、デベロッパーから買い取るよう指示を出した。それでも、目立った効果は出なかった。
国際通貨基金(IMF)は、中国の住宅在庫の処理には「140兆円を上回る資金が必要」と指摘している。しかし今のところ、中国政府はそこまでの規模の対策を打ち出していない。地方政府の財政悪化により、十分な対策が打てないとの指摘もある。
矢継ぎ早に発表された対策を見ても、基本的には金融緩和により需要を前倒しで取り込むことが主な目的になっている。その発想だけでは、不動産バブル崩壊の後遺症を解決するのは難しいはずだ。
米国、わが国やスウェーデンなど北欧の過去の教訓に基づくと、バブルが崩壊すると政府・中央銀行は債務返済能力を喪失した企業に公的資金を注入し、不良債権処理を進めることが必要不可欠である。それと同時に、利下げなど金融緩和を進め、公共事業も実施して経済全体に刺激をもたらす。
その上で重要なのが、政府の「成長戦略」である。産業のうち期待できる分野に経営資源が配分されるよう規制緩和し、民間企業のリスクテイクをサポートすることにより、持続的な景気回復が可能になる。
1990年代、わが国は財政支出の増加と金融緩和を実施したが、残念ながら不良債権処理は遅れた。構造改革の実行もできなかった。その結果、日本経済は「失われた30年」と呼ばれる長期の停滞に陥った。
不動産バブルが崩壊した中国も、本格的な不良債権処理は遅れている。中国では、地方政府の“隠れ債務”である地方融資平台の救済、再編も遅れた。今なお、地方政府は地方債の発行を増やし、当面の資金繰りの確保や住宅市場の支援策の資金を調達しようとしている。その状況下で金融緩和を進め融資を増やそうとしても、需要が持続的に増えることは難しいはずだ。
■飲食業界「激安メニュー」が増加 「デフレ・マインド」が社会に浸透へ
バブルの後始末を先送りすればするほど、不況は深刻化する。不良債権残高が増えるほど、金融システムの不安定性は高まる。中国政府は国有・国営企業など供給サイドの成長を重視していることもあり、生産能力は膨張傾向にある。不動産以外の業種でも債務問題の深刻化、収益性の低下によって人員カットを含むリストラを余儀なくされる企業は増えるだろう。
そうした展開を懸念し、中国から脱出する企業が増えている。すでに、独フォルクスワーゲンなど、海外企業が中国自動車市場で収益を得ることが難しくなっている。9月中旬、フォルクスワーゲンは、上海汽車集団(SAIC)と合弁の南京工場の生産停止を計画していると報じられた。中国企業は海外市場に進出して生き残りを目指そうとしており、アリババやテンセント、BYDなどの大手だけでなく、中小・新興企業も後を追っている。
この動きに伴い、雇用機会や優秀な人材も中国国内から海外に流出することになる。中国国内では、雇用環境の悪化を懸念する消費者が増えている。2024年の中秋節休暇中(9月15~17日)、中国の国内旅行者の1回当たりの支出額は、コロナ禍前19年と比べて1.6%増にとどまったようだ。先々の雇用・所得環境の悪化に備え、レジャー支出を抑え、貯蓄に励む国民の増加を示唆している。
節約を志向する人の増加に合わせ、飲食業界では「激安メニュー」が増加している。朝食を3元(約60円)で提供するファストフードチェーン「南城香」の人気が上がり、ピザハットやマクドナルドなど外資企業も格安メニューを投入せざるを得なくなっている。
今のところ中国政府は、日米欧が懸念するEVの過剰な生産能力を解消する考えを示していない。これからも、中国では値下げ競争の激化により企業の収益性は低下し、不動産以外の業種でも不良債権は増加すると予想される。
このままでは、景気の低迷は長引き、支出を抑え低価格のモノやサービスを買い求める「デフレ・マインド」が社会に浸透するだろう。中国経済は、わが国が経験した長期低迷の暗闇に、足を踏み入れつつあるように見える。
https://news.yahoo.co.jp/articles/b790fee84b49b71d232bc9ececee0b4b65aec652
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11:ななしさん