
2025年4月12日 06時00分 有料会員限定記事
戦時中に朝鮮半島から動員された元徴用工訴訟の原告遺族が来日し、日本政府や企業に謝罪と賠償を求めた。戦後80年が迫り当事者が少なくなる中、韓国では大統領が罷免され、賠償支払いを政府傘下の財団が肩代わりするとした解決策にも、今後影響する可能性がある。日韓国交正常化からも6月で60年。日本の植民地支配を背景とした「強制動員」問題が今に問うものとは。(福岡範行、中根政人、安藤恭子)
◆「はるばる来たのに対話できない…残念」
眉間にしわを寄せながらも、声は荒らげなかった。韓国から来日した元徴用工の遺族、李(イ)さん(68)は11日昼、東京・丸の内の日本製鉄前に立ち、こう問いかけた。「真摯(しんし)な謝罪のひと言が、そんなに難しいのでしょうか」
日韓の支援者ら約30人が「被害者に謝罪を」などと訴えた街頭活動だ。
李さんは支援者たちと計4人で日鉄の受付を訪ね、担当者との面会を求めた。面会の希望は事前に伝えていたというが、結局、会えずじまい。山なりになるほど唇を強く結び、日鉄の入る34階建てのビルを見上げた後に短く語った。「はるばる来たのに対話できない。残念極まりない」
李さんの父親は1月に亡くなった。104歳だったという。日鉄を相手にした韓国の元徴用工訴訟で2018年に勝訴した原告の一人だ。戦時中の1943〜1945年、当時の日鉄釜石製鉄所で働いた。「技術を学べる」と言われたが、1日12時間石炭を運ぶ単純労働をさせられ、賃金ももらえなかった。
◆日本政府は「完全かつ最終的に解決済み」の立場
こうした朝鮮半島からの労働者は、日本政府の労務動員計画により日本などに送られ、1939〜1945年の間に約80万人に上ったともされる。
戦時賠償を巡っては、今から60年前の1965年に日韓請求権協定が結ばれ、日本政府は「完全かつ最終的に解決済み」としてきた。1990年代には元徴用工らが日本政府や企業に賠償を求め、日本の裁判所に相次いで提訴したが、敗訴を重ねた。
一方、韓国では2012年に最高裁が個人請求権は消滅していないと判断。李さんの父が勝訴した2018年の確定判決など日本企業に賠償を命じる判決が続く。
しかし、日本企業からの賠償は進まず、韓国政府は2023年、韓国の財団が肩代わりする「第三者弁済」を提示した。この弁済を受け取るかどうかで、元徴用工の家族間でも意見が割れた。李さんは「残念ながら私たちの家族に問題が生じてしまった」と同日午後、国会内であった集会で嘆いた。
◆「過去を反省しなければ、歴史は繰り返される」
集会では、三菱重工業の広島造船所で働き被爆した元徴用工、鄭(チョン)さんの遺族2人のメッセージも紹介された。日本が植民地支配や強制動員の違法行為を認めていないとし、「日本が過去を反省しなければ、再び歴史は繰り返されるでしょう」と指摘した。