
2022年から2024年にかけて京阪神地区に三つのミュージアムが開館した。「ウトロ平和祈念館」(京都府宇治市)は2022年に設立。その前年に近隣のウトロ地区ではヘイト絡みの放火事件が起きた。館内には生活用具や朝鮮学校生の成績表などが並ぶ。金秀煥(キムスファン)副館長(49)は「多くの若者が来る。在日がいて良かったと思われる社会になれば」と理想を口にする。
2023年にスタートした「大阪コリアタウン歴史資料館」(大阪市生野区)は韓流ファンが韓国の食品やグッズを買い求める商店街のすぐ近く。伊地知紀子副館長(58)は「観光客はなぜここに資料館があるのか知らない。それを知ってほしい」と、在日が日本に渡った経緯を理解してもらうことが重要だと訴える。
神戸市長田区の「神戸在日コリアンくらしとことばのミュージアム」は2024年創立した。金信☆(金ヘンに庸)(キムシニョン)館長(72)はなりわいを支えた道具を徹底して収集。長田区はケミカルシューズ産業が盛んで多くの在日が従事してきた。靴作りに使う足の金型などが目を引く。金館長は「私の両親も靴工場で働いた。シューズは昔の在日のアイデンティティーでもある」とこだわりを持つ。
在日コリアンの人権問題に関する運動が盛んな川崎市では「多文化共生をめざす川崎歴史ミュージアム」をつくる動きが進行中だ。設立委員会の宋富子(ソンプジャ)代表(84)はコリアンにとどまらず「差別のない歴史をアイヌやブラジル、沖縄などから来た人たちとも一緒につくりたい」と熱く語る。川崎の活動の足跡を展示し、同時に「ここに来れば独りじゃないという場所にしたい」と触れ合いの場にするのも夢だ。
2005年に開設された「在日韓人歴史資料館」(東京都港区)には往時の住居模型や多数の関連書物が展示、収蔵されている。李成市(リソンシ)館長(72)は「いま在日の記録資料を集めなければとの危機感がある」と話す。日本の植民地時代や戦後に渡日した1世の数は少なくなった。日本社会の差別や偏見と闘ってきた2世も老齢の域に差しかかっている。
各館が運営資金確保などの課題を共有し、連携する計画が進む。2025年秋に大阪で各館の関係者が集まってシンポジウムを開く予定だ。李館長は「資料がどういう意味を持っているのかを点検し、後世に発信しないといけない」と在日と日本社会の未来を見据える。
5/3(土) 8:17 共同通信
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